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2004年12月 9日
「宇治拾遺物語」より「中納言師時、法師ノ玉茎検知ノ事」
原文
これもいまはむかし、中納言師時といふ人おはしけり。その御もとに、ことの外色くろき墨染の衣みじかきに、不動袈裟といふけさかけて、木練子の念珠の大きなる、くりさげたる聖法師入きて立てり。中納言「あれは、なにする僧ぞ。」と尋らるゝに、ことのほかにこゑをあはれげになして、「かりの世はかなく候を、しのびがたくて、無始よりこのかた、生死に流転するは、せんずる所煩悩にひかへられて、いまにかくてうき世を出やらぬにこそ。これを無益なりと思とりて、煩悩を切すてて、ひとへにこのたび生死のさかひをいでなむと、思とりたる聖人に候。」といふ。
中納言、「さて煩悩をきりすつとはいかに。」と問給へば、「くは、これを御らんぜよ。」といひて、衣のまへをかきあげてみすれば、まことにまめやかのはなくて、ひげばかりあり。「こはふしぎの事かな。」とみ給程に、しもにさがりたるふくろの、事のほかにおぼえて、「人やある。」とよび給へば、侍二三人いできたり。中納言「その法師ひきはれ。」との給へば、ひじりまのしをして、阿弥陀仏申て、「とくとくいかにもし給へ。」といひて、あはれげなるかほげしきをして、足をうちひろげて、おろねぶりたるを、中納言、「あしをひきひろげよ。」とのたまへば、二三人よりて引ひろげつ。
さて小侍の十二三ばかりなるがあるを、めしいでて、「あの法しのまたの上を、手をひろげてあげおろしさすれ。」との給へば、そのまゝにふくらかなる手してあげおろしさする。とばかりある程に、この聖まのしをして、「いまは、さておはせ。」といひけるを、中納言、「よげになりにたり。たゞさすれ。それゝ。」とありければ、聖、「さまあしく候。いまはさて。」と云うを、あやにくぞさすりふせけるほどに、毛の中より松茸のおほきやかなる物の、ふらゝといできて、腹にすはゝとうちつけたり。中納言をはじめて、そこらつどひたる物どももろごゑにわらふ。聖も手をうちて、ふしまろびわらひけり。
はやう、まめやか物を、したのふくろへひねりいれて、そくひにて毛をとりつけて、さりげなくして人をはかりて、物をこはんとしたりけるなり。狂惑の法師にてありける。
現代語訳
これも今となっては昔のことなんだけど、中納言師時というえらい人がいた。その人のところに、黒くて短い服着て、袈裟かけて、大きな数珠持ったお坊さんがやってきた。中納言さんが「あの坊さんだれ?」って聞いたら、あわれそうな声で「この世ってはかなくて耐えられません。大昔から輪廻転生してぐるぐる回って、結局煩悩に惑わされて、今もこうやって輪廻から解放されないでいるわけです。このままじゃいかんと思って、煩悩を切り捨てて、一気に輪廻から飛び出て解脱しちゃおう、って考えてる僧でございます」って答えた。
中納言さんが「えっ、煩悩を切り捨てたってどーゆーこと?」って聞いたら、「じゃぁこれ見てください」って、ズボンの前をかき上げて見せた。そしたらなんと大事なものがついてなくて、ヒゲだけ生えてた。「こりゃ不思議だぁ」ってよく見たら、下にぶらさがってるフクロがなんだか怪しい。「だれかいるか」って呼んだらお侍さんが2、3人出てきた。中納言さんが「その坊さん捕まえろ」って言ったら、お坊さんびっくりしてナムアミダブツって唱えて「もうどうにでもしてっ」ってやけくそになって居眠り始めちゃった。中納言さんは相変わらず「足ひろげろっ」ってお侍さんに命令してる。
12、3歳の小姓さんが呼び出されて、「あの坊さんのまたの上を、手ひろげてあげおろしさすれっ」って命令されたから、そのままふくらかなる手であげおろしさすった。しばらくしてお坊さんはびっくり飛び起きて「このくらいにしてください」って言ったけど、中納言は「よげになってきたぞ。たださすれ。それそれっ」って調子だから、お坊さんは「変な感じ。もう勘弁してっ」それでも意地悪くさすってたら、毛の中から松茸の大きなのがふらふらと出てきたんで、小姓さんはそれをこづいてお腹にすぱすぱ打ちつけてやった。中納言さんはじめ、そこら辺にいた人は声をそろえて大笑い。お坊さんも手を打って笑いころげた。
どうやら大事なものを、下のフクロにひねり入れて、糊で毛をくっつけて見えないようにして、さりげなく人をだまして、何かもらおうとたくらんでたようだ。まったく困ったお坊さんだ。
12/09 09:43 | シリーズ『古文のすすめ』
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